TAIMATSU以前の自分のキャリアを一言で言うと、価値があるのに、正しく届いていないものを、届く形に変えることにずっと取り組んできたと思っています。日本には世界に誇れる技術や美意識がある一方で、それが産地の内側の論理のまま止まってしまい、グローバルの市場設計、ブランド設計、流通設計に乗り切れていない場面が多い。伝統工芸に行き着いたのは、ロマンだけではなく、ビジネスとしての余白が大きいと確信したからです。日本の伝統技術は本質的に強い。ただし、その強さが価値に変換される回路が弱い。そこをつくり直せば、日本発で世界に勝てる。TAIMATSUは、その回路を産業として実装するための会社です。
実際に伝統工芸の現場に深く入り込んで、最初に突きつけられたのは、理想でも感動でもなく、強烈な違和感でした。一番の衝撃は、技術の凄さと、事業の脆さが、同じ場所に共存していたことです。神業のような品質が生まれているのに、それが職人の生活や産地の未来に十分還元されていない。需要がないわけではないのに、届き方が弱い。価格の決まり方も、販路も、伝え方も、現代の市場構造と噛み合っていない。危機感はもっとシンプルで、このままだと消えるという実感です。誰か一人が頑張って守れる話ではなく、構造の問題。だからこそTAIMATSUは、単に良いものを売る会社ではなく、職人技術が継続的に成立する市場をつくる会社として始まりました。ここが原点です。

勝てる理由は精神論ではありません。勝ち筋が、構造として見えているからです。TAIMATSUの武器は大きく三つあります。
① 本物へのアクセスと、深い現場接続伝統工芸は、参入できるようで参入できない領域です。品質は工程と関係性で決まる。TAIMATSUは職人世界に深く入り込み、供給の芯に触れられます。
② ブランド × リテール × グローバルの設計力MUSASHI JAPANとして、京都、東京、奈良に実店舗を持ち、実地で顧客の反応を取り、体験を磨き、改善を回せる。さらに米国、フランス展開を本気で取りにいく。最初から、世界の市場ルールで勝つ前提で設計している点が大きな違いです。
③ 伝統をプロダクト化する編集力伝統工芸は、良いものを作るだけでは伝わりません。物語、用途、体験、言語化、教育。使い方まで含めて、初めて価値になる。TAIMATSUは、職人技術を世界のユーザーが理解できる価値へ翻訳し直せる。この編集力が差になります。要するに、作れるだけでも、売れるだけでもない。作る力と、届ける力を同時に持っていること。それが、TAIMATSUの勝算のロジックです。
「では、この構造をつくり直した先に、どんな未来を実現したいのか。TAIMATSUが目指しているのは、延命ではなく、次のフェーズです。5年後には、職人の技術が次の世代に継承される事業の形が、複数の産地で再現可能になっている状態をつくりたい。職人の収益が安定し、弟子が入り、設備投資が回り、品質が上がり続ける。つまり、技術が守られるのではなく、進化するフェーズに入っている。10年後はもっと明確です。日本の伝統産業が、観光のお土産ではなく、世界の生活者にとっての本気の選択肢になっている状態。そのときTAIMATSUは、単一ブランドの会社というより、日本の伝統技術が世界市場で成立するためのプラットフォームになっているはずです。最終的に変えたい景色は一つ。すごい技術なのに苦しい、からすごい技術だから強い、へ。TAIMATSUがあることで、それが例外ではなく、当たり前になっている未来をつくります。